相続税・財産評価 ケーススタディ

通行用賃借権で前面通路を借りている宅地は、無道路地評価か旗竿地評価か

タックスアンサーNo.4620にいう「通行する権利」の射程を制度趣旨から実質的に解釈する
Q. 論点

道路に直接接していない宅地について、第三者所有の前面通路を「通行用地」目的の賃貸借契約(公正証書あり・賃料あり・登記なし・建物所有目的でない)で借りている場合、相続税評価上は無道路地として評価すべきか、旗竿地(不整形地)として評価すべきか。

国税庁タックスアンサーNo.4620の「他人の土地に通行の用に供する権利を設定している場合は、無道路地の評価の対象となる宅地には該当しない」とされる「権利」とは、具体的にどの範囲を指すのか。

A. 結論の方向性

タックスアンサーNo.4620の「通行する権利」を財産評価基本通達20-3の制度趣旨(接道義務不充足による利用価値低下の補正)に立ち返って実質的に解釈すると、「形式的に通行できる権利一般」ではなく、「その権利によって接道義務が満たされ、建物の再建築が可能となる程度の権原」を指すと解するのが整合的と考えられる。

建物所有目的でない通行用賃借権(登記なし)は、原則としてこれに該当しない可能性が高く、評価対象地は「無道路地評価(評基通20-3)」の対象に該当する可能性が相当に高いと整理し直すのが妥当と考えられる。通路部分の賃借権は、評基通87「賃借権の評価」のロ(自用地価額 × 法定地上権割合 × 1/2)により別途独立の財産として並列計上する整理が相当と考えられる。

想定事案サマリー(一般化)

評価対象地

性状
奥の宅地、自用建物あり、宅地・自用地
地区区分
普通住宅地区
道路接面
道路に直接接していない

通路の状況

所有関係
第三者所有の土地の一部
通路幅員
不均一、一部に建築基準法上の接道幅員2m未満の箇所あり
道路該当性
建築基準法第42条1項各号および同条2項のいずれの道路にも該当しない

賃貸借契約

形式
公正証書による土地賃貸借
賃料
固定資産税相当の実費水準
契約期間
20年(既に満了、黙示更新中)
目的
通行用地(建物所有目的でない)
登記・権利金
いずれもなし

特徴的な事情

公正証書の文言
「前面空地確保のための協定(非道路地)」
当事者関係
第三者間契約
建築基準法
接道義務不適合の可能性が高い

判断フローの整理

Step 1 評価対象地は道路に直接接しているか? →いいえ
Step 2 他人地を通行する権利の根拠は? →契約による通行用賃借権(公正証書、有償、長期継続)
Step 3 その権利は「タックスアンサーNo.4620にいう通行する権利」に該当するか?
制度趣旨に立ち返ると、「接道義務を満たし、建物の再建築が可能となる程度の権原」が判断基準。
Step 4 本件の通行用賃借権の評価
(a) 建物所有目的でない(借地借家法非適用)
(b) 賃借権の登記なし(民法第605条の対抗力なし)
(c) 通路自体が建築基準法上の道路に該当しない
(d) 第43条第2項第2号許可も不確定
「接道義務を満たし再建築が可能となる権利」とまでは評価し難い
Step 5 評価対象地は無道路地評価(評基通20-3)の対象に該当する可能性が相当に高い
Step 6 通路部分の賃借権は別途、評基通87「賃借権の評価」のロ(自用地価額×法定地上権割合×1/2)で評価し、独立の財産として並列計上

旗竿地評価アプローチとの比較

旗竿地評価アプローチ 通行用賃借権を「タックスアンサー4620にいう通行する権利」に該当するとし、評価対象地を通路部分を含めた不整形地として一体評価(評基通20)。

通路部分が所有ではなく賃借にとどまるため、完全に一体の自用地として評価することには疑義が残る。
無道路地評価アプローチ 評価対象地を、不整形地評価額から通路開設費用相当額(不整形地評価額の40%を上限)を控除して評価(評基通20-3)。

通路部分の賃借権は、評基通87のロ(自用地価額×法定地上権割合×1/2)で別途評価し、相続財産として並列計上。

制度趣旨と整合的かつ評価額の妥当性も高くなる傾向。

両アプローチでトータルの相続税評価額がどう変わるかを比較したうえで、立証可能性とリスクを総合的に判断して方針を確定する流れになる。再建築困難の実情がある事案では、無道路地評価アプローチを採用する方が制度趣旨と整合的と考えられる。

実務上の推奨アクション

  1. 所轄行政庁(建築主事)に、当該通路が建築基準法第42条1項各号および同条2項のいずれの道路にも該当しないこと、評価対象地での建物再建築の可否(第43条第2項第2号許可の見通しを含む)を事前確認する。再建築不可と確認できれば、無道路地評価採用の最大の裏付けとなる。
  2. 現況の幅員測量図(公正証書添付の測量図のほか、現地写真)を整備し、通路幅員に建築基準法の接道義務(2m以上)を満たさない区間があることを客観的に立証できる状態にする。
  3. 賃料水準の合理性を確認する。極端に低廉な場合は使用貸借類似と認定され、賃借権評価がさらに低く扱われる可能性がある(使用貸借通達・昭和48年11月1日付直資2-189の趣旨参照)。
  4. 公正証書の写し、建築指導課での確認記録、現況写真等を一式そろえたうえで、所轄税務署資産課税部門への事前相談(書面照会または個別相談)を実施し、評価方針の合意を取り付ける。
  5. 無道路地評価の場合の通路開設費用控除額(幅員2m × 想定通路の奥行 × 路線価、不整形地評価額の40%を上限)と、通路部分の賃借権評価額(評基通87ロ)を併せて試算し、旗竿地評価との数値比較を行う。
論点1:タックスアンサーNo.4620にいう「通行する権利」の射程制度趣旨からの実質判断、権利種類別の整理

1. 通達20-3(無道路地の評価)の構造

財産評価基本通達20-3は、無道路地を「道路に接しない宅地(接道義務を満たしていない宅地を含む)」と定義し、評価額の計算式を次のとおり定めている。

無道路地の評価額 = 通達20(不整形地評価)または通達20-2による価額
          − 通路開設費用相当額(不整形地評価額の100分の40を上限)
※ 通路開設費用相当額 = 実際に利用している路線の路線価 × 接道義務を満たす最小限の通路面積(幅員2m × 想定通路の奥行)。各種画地調整は適用しない。

2. タックスアンサーNo.4620の核心文言

「他人の土地に囲まれていても、その他人の土地に通行の用に供する権利を設定している場合は、無道路地の評価の対象となる宅地には該当しません。」

3. 「通行する権利」の射程の実質判断

タックスアンサーNo.4620の文言は「権利」の種類を明示的に限定していないため、解釈の幅がある。しかし、制度趣旨に立ち返って次のように整理するのが整合的と考えられる。

評基通20-3が40%を限度とする減額を認める根拠は、接道義務(建築基準法第43条第1項)を満たさず、建物の新築・再建築ができないことによる利用価値の著しい低下を補正する点にある。減額の中身も「接道義務に基づき最小限度の通路を開設する場合の通路開設費用相当額」と定められており、制度全体が「建築不可・利用価値低下」を補正する構造になっている。
したがって、「通行する権利」とは形式的に通行できる権利一般ではなく、実質的には「その権利によって接道義務が満たされ、建物の再建築が可能となる程度の権原」を指すと解するのが、制度趣旨と整合的と考えられる。

4. 権利種類別の整理

権利の種類無道路地評価を排除する「権利」への該当性主な根拠
建物所有目的の借地権・地上権 該当し得る(典型) 借地借家法第1条、第2条第1号。借地借家法上の保護のある強い権原で接道義務充足の蓋然性が高い
通行地役権(登記あり) 該当し得る 民法第280条以下。第三者対抗力があり、第43条第2項第2号許可の前提となりやすい
囲繞地通行権のみ 該当しない 民法第210条。最判平成11年7月13日が、囲繞地通行権と建築基準法上の接道義務は趣旨・目的を異にし、接道要件を満たす内容の囲繞地通行権が当然には認められないと判示
通行目的のみの賃借権(建物所有目的でない、登記なし) 原則として該当しない可能性が高い 借地借家法非適用(同法第1条、第2条第1号)。登記なしでは民法第605条の対抗力なし

5. 重要な留意点

タックスアンサーの文言が広く読めるため、税務署側から「公正証書による長期の賃貸借契約がある以上、無道路地ではない」との見解が示されるリスクは現実的に存在する。これに備え、(1)通路が建築基準法上の道路でないことの建築指導課による確認書面、(2)現況写真・幅員測量図、(3)第43条第2項第2号許可の見込みについて特定行政庁での事前相談の記録、(4)賃料水準の合理性を裏付ける資料、を準備しておくことが、無道路地評価を採用する場合の立証上重要となる。

論点2:通行用賃借権の評価評基通87の体系(イ・ロ)、法定地上権割合の適用

1. 評基通87「賃借権の評価」の体系

雑種地に係る賃借権の評価は、財産評価基本通達87の区分構造に従う。

区分該当要件評価式
イ(地上権に準ずる権利として相当のもの) 賃借権の登記がされているもの/設定の対価として権利金等の一時金の授受があるもの/堅固な構築物の所有を目的とするもの 自用地価額 ×(法定地上権割合 又は 借地権割合のいずれか低い割合)
ロ(イ以外の賃借権) 登記なし・権利金授受なし・建物所有目的でない通行用賃借権等 自用地価額 × 法定地上権割合 × 1/2(相続税法第23条の準用関係)

2. 法定地上権割合(相続税法第23条)

残存期間法定地上権割合
10年以下5/100
10年超15年以下10/100
15年超20年以下20/100
20年超25年以下30/100
25年超30年以下、および存続期間の定めなきもの40/100
30年超35年以下50/100
35年超40年以下60/100
40年超45年以下70/100
45年超50年以下80/100
50年超90/100

3. 通行用賃借権のイ・ロ判定

通行用の賃借権は、一般に以下の理由から評基通87のロ「イ以外の賃借権」に該当する。

  • 賃借権の登記がされていないことが多い → イ①不該当
  • 権利金等の授受が通常ない → イ②不該当
  • 建物所有目的でなく、堅固な構築物の所有目的でもない → イ③不該当

4. 残存期間の認定

当初契約期間が満了し、法定更新・黙示更新の状態にある通行用賃借権の残存期間は、認定に幅が生じうる。当事者の継続意思・賃料の継続支払い・通路利用の事実上の不可欠性等から、引き続き相当期間の存続が見込まれる権利として「期間の定めなきもの(40/100)」を適用する整理が現実的と考えられる。

5. 賃料水準と使用貸借認定リスク

賃料が極端に低廉な場合、税務上「使用貸借に類するもの」と認定され、評基通87の通常の賃借権としての評価額がさらに低く扱われる可能性がある(使用貸借通達・昭和48年11月1日付直資2-189の趣旨参照)。一方、通路としての利用形態にふさわしい賃料として整理できれば、賃借権としての評価額の主張に資する。

論点3:権利設定による法的効力対抗要件、公正証書の効果、黙示更新、解約申入

対抗要件と存続保護の整理

項目通行用賃借権の状況効果
民法第605条(不動産賃貸借の対抗力)賃借権登記なしが通常第三者対抗力なし
借地借家法第10条(借地権の対抗要件)建物所有目的でないため借地権に該当せず適用なし
公正証書の効果高い証明力/執行受諾文言で強制執行可能証拠力・執行力はあるが物権的対抗力ではない
民法第619条第1項(黙示更新)使用継続・異議なしで黙示更新中期間定めなしの賃貸借として継続
民法第617条第1項第1号(解約申入)各当事者がいつでも解約申入可能申入から1年経過で終了
民法第612条(譲渡・転貸)賃貸人の承諾要、違反時は解除可譲渡・転貸性ゼロ、市場性なし

「不安定な権利」が評価に与える影響

(1)第三者対抗力なし、(2)解約申入から1年で消滅可能、(3)譲渡・転貸の原則禁止 — の3点から、通行用賃借権は法的に不安定な権利と整理される。とくに(1)の対抗力欠如は、通路所有者が将来第三者に売却した場合に新所有者に対して賃借権を対抗できない可能性が高いことを意味し、「将来にわたり通行が確保されているとは言えない」事情として、無道路地評価を補強する方向に働く要素となる。

「前面空地確保のための協定(非道路地)」明定の意味

側面意味評価上の効果
私法的意味当該通路部分は「道路」ではなく「私的通路」と当事者間で確認賃借権の対象としての性格を明確化
公法的意味建築基準法第42条1項各号および同条2項のいずれの道路にも該当しない同法第43条第1項の接道義務を文言上満たさない → 再建築困難
相続税評価への影響「接道義務を満たし再建築が可能となる程度の権原」とまでは評価し難い事情無道路地評価採用の方向に強く働く要素
論点4:評価試算の考え方無道路地評価による評価額、賃借権の独立計上、補正率の数値一覧

具体的な評価額は路線価・地積・補正率を当てはめて算出する。以下は計算ロジックの整理。

評価対象地(奥の宅地)の評価

Step 1:実際に利用している路線の路線価で、評価対象地と通路部分を含めた「想定整形地」を描く
Step 2:不整形地補正(評基通20)または地積規模の大きな宅地の評価(評基通20-2)により、不整形地としての評価額を計算
Step 3:通路開設費用相当額を控除
   通路開設費用 = 路線価 × 想定通路面積(幅員2m × 想定通路の奥行)
Step 4:控除額の上限は不整形地評価額の40%

通路部分の賃借権の評価(評基通87ロ)

賃借権評価額 = 通路部分の自用地価額 × 法定地上権割合(期間定めなし=40/100)× 1/2
       = 通路部分の自用地価額 × 20/100
※ 登記なし・権利金授受なし・建物所有目的でないため、評基通87ロに該当する整理。残存期間の認定に幅があるため、当事者の継続意思・賃料の継続支払い等を踏まえて適用割合を確定する。

両者の関係

評価対象地について無道路地評価を行ったうえで、別途、通路部分の賃借権を独立の財産(土地の上に存する権利)として計上する(評基通7「土地の上に存する権利の評価上の区分」、9「土地の上に存する権利の評価」)。両者は別個の財産であり、合算の関係ではなく相続財産として並列的に計上される。

補正率の正確な数値(普通住宅地区)

補正種類主な区分と数値
奥行価格補正率4〜6m=0.92、6〜8m=0.94、8〜10m=0.96、10〜12m=0.98、12〜14m=0.99、14〜24m=1.00、24〜28m=0.97、28〜32m=0.95、32〜36m=0.93、36〜40m=0.92
間口狭小補正率4m未満=0.90、4〜6m=0.94、6〜8m=0.97、8m以上=1.00
奥行長大補正率2未満=1.00、2〜3未満=0.98、3〜4未満=0.96、4〜5未満=0.94、5〜6未満=0.92、6〜7未満=0.90、7〜8未満=0.90、8以上=0.90
不整形地補正率
(地積区分A・かげ地割合別)
10%=0.98、15%=0.96、20%=0.94、25%=0.92、30%=0.90、35%=0.88、40%=0.85、45%=0.82、50%=0.79、55%=0.75、60%=0.70、65%以上=0.60
地積区分A:500㎡未満、B:500〜750㎡、C:750㎡以上

※不整形地補正率と間口狭小補正率の併用上限0.60。不整形地補正率と奥行長大補正率は併用不可、「不整形地補正率×間口狭小補正率」または「間口狭小補正率×奥行長大補正率」のいずれか有利な方を選択。

論点5:再建築可能性の確認建築基準法第42条・第43条、特定行政庁の許可運用

建築基準法上の道路と接道義務

建築基準法第43条第1項は、建築物の敷地は「建築基準法上の道路(同法第42条所定の道路)に2m以上接していなければならない」と規定する(接道義務)。建築基準法第42条1項各号(公道その他の道路の類型)および同条2項のみなし道路に該当しない通路は、接道義務の文言上、満たさないことになる。

第43条第2項第2号許可(旧但書許可)の余地

例外的に、特定行政庁による許可(建築審査会の同意要件付き)を取得できれば再建築可能となる余地はある。各特定行政庁が定める「一括許可同意基準」は、多くの自治体で幅員2m以上の確保や避難・安全性の充足を求めている。通路幅員に2m未満の箇所がある場合は、許可基準への適合性にリスクが残る。

再建築困難の実情と評価方針

「再建築が困難である」という実情は、評基通20-3の制度趣旨(接道義務不充足による利用価値低下の補正)と直接結びつく事情であり、無道路地評価を採用すべき方向に強く働く事情として整理できる。所轄建築指導課への事前確認を行い、再建築不可(または極めて困難)であることを書面で残しておくことが、申告上の重要な裏付け資料となる。
主要法的根拠(条文・通達・判例)引用根拠の一覧
財産評価基本通達7 財産評価基本通達9 財産評価基本通達20 財産評価基本通達20-2 財産評価基本通達20-3 財産評価基本通達87 相続税法第23条 借地借家法第1条 借地借家法第2条第1号 民法第210条(囲繞地通行権) 民法第280条以下(地役権) 民法第601条以下(賃貸借) 民法第605条(賃借権の対抗要件) 民法第612条(譲渡・転貸) 民法第617条第1項第1号(解約申入) 民法第619条第1項(黙示更新) 建築基準法第42条1項各号・第2項 建築基準法第43条第1項 建築基準法第43条第2項第2号 国税庁タックスアンサーNo.4620(令和7年4月1日現在法令等) 国税庁質疑応答事例「無道路地の評価」 国税庁質疑応答事例「接道義務を満たしていない宅地の評価」 国税庁質疑応答事例「雑種地の賃借権の評価」 最判平成11年7月13日(判時1687号75頁、判タ1015号152頁、囲繞地通行権と接道義務) 使用貸借通達(昭和48年11月1日付直資2-189)
本資料は相続税の財産評価における一般的な論点整理を目的としたケーススタディです。具体的な事案への当てはめにあたっては、現地測量図・公正証書・路線価・建築指導課への確認等の事実関係を踏まえた個別判断が必要となります。最終的な税務判断は、所轄税務署および税理士へのご相談のうえお決めください。